「ご協力」という名目の無言のノルマ
うちの教室は、自分の発表会の時は、明確な「チケットノルマ」はありません。「是非、お友達や家族のみなさんに晴れ姿を観てもらいましょうね。」という内容の、「ご協力お願いします」的なレベルです。ビギナーのうちは、やはり舞台に立つのはすごく嬉しい事で、1人で10枚くらい買う人がけっこういます。それでも、合計の自己負担金額は3万~4万くらいです。それでも、発表会には空席が目立ちます。発表会が赤字になるような教室経営はしていないはずなので、チケットが売れなくてもトントン、くらいの出演料を、生徒側は払っているのだと私は思うのであります。
先生の公演にはチケットノルマがある
先生が自主公演をされたり、お仲間の公演にゲスト出演なさる時、先生側のご都合で隠されたチケットノルマはあるんです。ただし、「ノルマがあります」とはさすがに言いません。尋常ではないくらいのプッシュの強いオススメが何度も何度もあります。レッスン時に口頭で、メール配信で、それが続きます。1万円のチケット代、高いですよね。でも、尊敬する大好きな先生の出演される公演なので、自分はすごく観たいです。1万円出しても、それに値するだけの素晴らしいものだとわかっています。「私はこの先生に教えていただいてるの!」と、家族や友人にも見てもらいたいと思います。観た人は必ず、心がワクワクして目を輝かせて帰るのは、わかっています。
で、も、あまり興味のないフラメンコに1万円払って一緒に観に行ってくれる友人は、ほとんどいません。1万円あったら、服も買えるし美味しいディナーにも行けますものね。だから、古株の生徒になるほどに、自分の分のチケットを1枚しか買わなくなります。まさかの出張なんかが入ってしまって行けない(買わない)時は、ちょっと申し訳なく気まずい思いをします。(注:でも、ノルマがあります、1人何枚は買ってください。というお達しはうちでは絶対にありません。そんなノルマを課せて、せっかくフラメンコに興味を持って習い始めてくれた大切な生徒さんを不安にさせるようなことは、先生は絶対にしません。
気になるノルマのお値段とは
舞踊団を持っているような大きな教室では、年に1回くらいは、大先生がメイン出演&総合演出する大ホール(収容人数500人超)での公演があります。チケット代は1万円前後。ストーリーがあって劇仕立てになっていたり、相手役としてスペインで人気のある男性の踊り手を(1人じゃなくて複数人も)呼んでいたり、同じくスペインから歌い手やカホンの人を呼んでいたり、国内の人気踊り手もゲスト出演したり、バイオリン等クラシック奏者もいたり・・・それはもう、豪華絢爛。衣装だって、その公演の為に誂えられたものが初お目見えします。
さて、そんな公演に必要不可欠なのが自前の舞踊団員。(舞踊団員と言っても、みなさん本業は普通の会社員です。)ちょっと語弊はありますが「バックダンサー」と言えば、わかりやすいかもしれません。主要キャストの後ろやサイドで踊ったり、主要キャストが衣装替え等で長く舞台裏に引っ込む時に頑張る役です。舞踊団員の中でも、新人もいればプロ並みのすごい方もいます。例えばその公演で10曲のフラメンコ群舞をする時、新人なら1曲だけ、プロ並みなら8曲、というふうに出演曲数が変わります。
ここで、チケットノルマのお話をしましょうかね。出演者である舞踊団員にはチケットノルマがあります。出演曲数に応じた然るべきチケット枚数が割り当てられます。これは、「習い事ではない」からです。公演に出ると決めたのは自分の意思ですし、フラメンコを生業とする皆さんの中に混じらせてもらい、同じ舞台に立つ以上は、お客様は舞踊団員をプロの踊り手として観ます。「自分の踊りを、お金を払って観ていただく」その責任を背負って踊る、ノルマはその一部分のようなものです。
気になるノルマのお値段ですが・・・私の情報網の知る限りでは20~40万くらい、でしょうか。舞踊団員ではなく、ゲスト出演されるプロの先生方レベルでは、50万超だそうです。
普通にOLしていて、趣味でフラメンコを習っていて、ちょっと素質を見込まれてバックダンサー的なことや教室の営業的なことまでやって、(お願いをされて、やるって決めてるのは自分だから仕方ないけど)、有給休暇は使わなあかんわ、40万は支払わなあかんわ(チケットを売る。と言うか、売り切れる訳はないから自腹。)って、酷ですよね。。。でもそこまでしてでも、公演に出たい、指導を受けたい、プロダンサーの近くにいたい、って人も、少なからず、いるのです。
チケットノルマは完売できるの?自腹なの?
公演が近づくと、大先生も含め、出演者みんながチケットを売るために人脈を駆使します(笑)。普段はOLの舞踊団員レベルでは、人脈は限られています。空席を出したくないので、チケット代を自分が半額かぶって買ってもらったり、もしくは「招待」ということで全額かぶって差し上げたり、1枚でも手持ちのチケットを減らそうと一生懸命努力します。
なんだ?じゃあ結局は公演に出るために何十万も出してるってこと???!と思う方も多いかもしれません。でもそれも、違うんです。公演のためのお稽古代としては何もお支払いしないので、勉強代、と言うこともできます。考えてみてください。会社でふつーに経理をしていたり、庶務をしているようなOLが、大先生から猛特訓を受けたり、今をときめくスペインの一流舞踊家の指導を受けたり、日本の若手舞踊家に混じって練習ができることは、現実的にそうそう起こり得ないです。数曲しか出演しない場合でも、稽古やリハでは最初から最後までプロのみなさんと共に過ごし、とんでもない刺激を目の当たりにします。空き時間には衣装直しや小道具のメンテなど裏方の仕事もやって(下っ端の劇団員みたいですね)、公演ってこんなふうに成り立っているのかと、舞台に立つ意義を痛感します。は~??さっぱり理解できないわ~!ってあきれられてしまうかもしれませんが、自分の信じる道を突き進んでひたむきに努力する者には、どうか、どうか、何も言わないでください。
そして、もし自分の周りのどなたかに、「今度フラメンコ(バレエやフラでも同じ)の公演に下っ端で出るんだけど、観に来てくれたりしませんか?お時間あったら嬉しいです!」って声をかけられたら、「行く行く~!」と、言ってあげてください。その頃のどなたかは、心身ともに疲労困憊で気合で職場に出勤しているはずです。そして当日、颯爽と舞台に出てきたほんの少しの時間を、しっかりと観てあげてほしいのです。